3巻 ——もっと限りなく創作に近いステファノさんの本3
【Flowers are always everywhere. If only we have the desire to see them】
The Evil Within2 二次創作小説本 Stefano生存IF

目次
・【Flowers are always everywhere. If only we have the desire to see them.】 P5―56
・【後書き・奥付】 P57
・【セオドア神父の相棒】 P58―71
・【アドミニストレーターの受難】 P72―81
・【ユニオンの青い月】P82

ステファノ生存IF続編番外
Flowers are always everywhere. If only we have the desire to see them.

  イタリアの街中の道路は狭く複雑だが、高速道路(アウトストラーダ)はそれなりに快適な旅を約束してくれる。フィレンツェからローマまで運転して片道3―4時間。幸い渋滞する時間ではないが、本来は車での移動よりは高速鉄道がスムーズな距離だ。

 彼はしかしカメラの機材を運ぶ手間を考え、車での移動を選んでいた。愛車は小柄な国産メーカーのもの。狭いイタリアの街の路地を行くには小回りを考えてコンパクトカーを選ばざるを得ない。イタリア車らしい洗練されたインテリアの車内では、運転する彼の隣の助手席で黒い猫が横になっている。猫が下敷きにしているのは簡易的に畳まれた彼のジャケットだ。猫は満足げにそこから動くことはない。後部座席に、猫用のキャリーも固定されてはいるのだが。

「フォーカス」

 彼はネコの名を呼んだ。目を細め、退屈げにフロントガラスを眺めている猫は耳だけを彼に向けて注意を払う。猫なりに同行者を意識しているようだ。

「サービスエリア(アウトグリル)に入る。多分君も下りたいだろうな?」

 飲み物などを特に用意せず来ていたので、少し休憩を入れたいところだった。ここまで二時間は運転を続けてきている、そろそろ集中も欠けてくる頃合いだ。

 戦場に居たころは武装した兵士の運転する車の後ろにのって銃器とともに運ばれる……などが日常としてあった。目の前に無造作に転がるM4カービン銃、アサルトライフル……火元があれば¦あるいは撃たれれば誘爆で命の保証はまるでない。そんな緊張感と、隣で慣れた様子でタバコを吸いだす同乗者の兵士。遠くで聞こえる何かの爆発音。焦げ付く煙の臭い。
 あの感覚に比べたら、今は随分な平和さだ。猫が隣であくびをするのが目の端に映る。
 ——これが、幸せと言うものなのだろうか。

「果たして僕は、今幸せだと思うか?」

 無責任な問いを、責任のない猫に投げてみる。耳だけは反応するものの、猫の瞳はこちらを見返すこともなくフロントガラスの景色に注がれたままだ。
 前の車は丁度パトカー。その後ろを抜くこともできずチョロチョロするバイクが危なっかしく、しかしそれが猫の興味を引くには丁度いいらしい。

「こういう時のパトカーも厄介だよなあ」

 猫の目線に委ねるならば、自分の幸せはバイクの出す排気ガスになりそうだ。あるいはそのはるか向こう、雲に煙る遠くの海か。
 ——海か……夏にはそれもいいかもしれない。
 思えば海外の撮影ばかりで、この国の撮影はかつて満足にしていない。この豊かな国に生まれておいて、ほとんど国内を撮っていないと言うのも皮肉なものだ。美を求めるならこれほど充実した国もない、自国の身びいきを差し引いてもイタリアは様々な美に満ちている。
 それにもしかしたら求めている「特別な一枚」にも出会えるかもしれないと期待していた。仕事でいい写真を撮影することはもちろんだが、本来彼は景色ではなく人を撮るのが専門だ。隣人と相棒の猫に救われて以後今は、新たな被写体となる「誰か」との出会いがある事を願う心境にもなっている。
今回は依頼による来訪だが、敢えて国内を様々撮影して回るのはなかなか実のある経験になりそうに思えた。勿論毎回それなりの長距離運転に耐える必要はあるだろうが。
 ——その手の忍耐なら、勿論覚悟の上だしな。
 今回引き受けた依頼はミラノとローマのクリスマスマーケットの前取材、だった。WEB雑誌に使うだとかで、内容としてはそう難しい撮影ではない。幾つかの指定された店に出向いて店主らの表情や出店にまつわる景色を撮影して回る。一見するとスムーズそうだが、両都市はフィレンツェをはさんでちょうど南北の位置だった。北にミラノ、南にローマ。両方を一気にまわっての帰宅、とはなりえない。どちらを先にこなすべきかは悩んだが、彼はネコ連れであることを考慮し冬がより冷えるミラノを早いうちに片づけてしまおうと決めていた。幸い今なら雪もまだ降ってはいない。
 肩に乗りたがりのフォーカスに一日中十度以下の気温は厳しいだろう。一方温暖なローマなら十二月に入ってもそうは冷えない。

「本来なら行き先は逆の方が季節らしい風物詩は楽しめそうなんだが。——君には世話が焼けるな?」

耳としっぽだけで返事をする黒い相棒に、声をかけつつ彼はアウトグリルへ車を寄せた。

続きは本編で

カテゴリー: Novel

ジャラシウス

絵描き兼文書き 最近メカクレに開眼した