更に限りなく創作に近いステファノさんの本4

When I remember this moment, I feel eternity.
この瞬間を思うとき、僕は心に永遠を感じる

TheEvil Within2悪役生存IF Stefano正気化
目次
◆P5—— When I remember this moment, I feel eternity.
◆P109——レモン色の小鳥
◆P124——HAMU教団
◆P126——月に触れる
◆P128——後書き
  

1 フィレンツェより(Da Firenze)

「君が一緒に来ていたら、退屈だけはさせなかったろうと思うよ。決して現実的ではないけどな」

 片方の口の端を上げた皮肉な笑みを浮かべつつ、彼は出されたエスプレッソを飲んでそう言う。

「命がけって聞いちゃうと、なんだかすっごく楽しそうに思えてしまうのよねぇ、映画の見すぎなのはわかっているんだけど」


 対する言葉は、言葉に似合わぬおっとりとした老婦人のもの。二人は今老婦人の家の庭にいた。年季は感じられるが痛んではいないガーデンテーブルに、上品に並べられたティーセット。そして膝に乗る黒い猫。
 テーブルを明るい日差しが照らし、冬の空気ではあるが寒さは厳しく届いていない。木陰に輝く日光に銀の小皿が照り返す。その中には老婦人の手による焼き菓子が供されていた。
暖かいエスプレッソは先程彼がキッチンから持ち出したエスプレッソメーカー(マキネッタ)から注がれる。お土産話のお茶会、と言ったところだ。

「あれを実際に楽しかった、とだけ思える日が来るかな。実際なかなか危なかったんだ、運次第じゃ今頃ここで美味しいティータイム、とはいかなかっただろう」

「もちろん、そりゃ心配だわよ?」

「けど実際それより興味が強そうだ。ティータイムよりお見舞いの方が良かったかな?」

「やぁねえ」

 老女と互いに笑いあう、彼の瞳の表情はかつてなく凪いでいる。
 ミラノでは色々とあった、命の危機までも。その結果として今がある。こうして家で過ごす穏やかな隣人との時間が、以前より更に得難いものに思えていた。

「無事な方が嬉しいに決まってるわ」

「だけど命に別条がない程度に、色々揉まれて土産話が膨らむのは歓迎って顔だ」

「意地悪だわねえ、今こうして聴けるお話が一番の贅沢よ」

「本気だと良いけどな」

 軽口をたたき合いながら、彼は老女へ写真を差し出した。

「君をキュレーターと見込んで聞きたい、中で大きく伸ばすにいい画はあるかな、僕の気に入りはコレなんだが」

 ホテルの室内、何の変哲もない「スナップ」と言ったショットだった。窓から射す日差しの中で、床に転がった黒猫(フォーカス)を撫でる警察の制服を着た体格のいい男。
 如何にも人好きのしそうな笑顔が自然に猫へ向けられ、背中のPOLITZA(警察)の文字の厳つさと対象的な印象を添える。

「良い画ね。それにちょっと面白い。ハリウッドの映画、それもパニックアクションもののエンディングカットみたいだわ。写真として物語性の感じられる奥行きがあるわね」

「この彼のせいだな? そう、映画みたいな男なんだ。言い訳もうまくてな……」
 エスプレッソを口に含み転がすように味わった。苦味の濃さと重い甘み……ミラノのそれに似た印象の味だ、と感じた。

続きは本で

カテゴリー: Novel

ジャラシウス

絵描き兼文書き 最近メカクレに開眼した